フィグ・アジェスト(c00731)のブログ。キミはワタシを知ってるかい?
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「マスター!」
呼ぶ声と共に勢いよく入って来た犬に、時間を知る。
今日はまた騒々しいと顔を上げれば、何故かおれのコートを抱えている。
それは、と問い掛けて、その前に腕を引かれた。
「今日の仕事は終わりでしょう?」
晴れやかに言うのは、いつも以上に上機嫌な様子で。
押し付けられたコートに袖を通しながら、犬の促すままに――庭の方へと向かう。
わざわざと上着を渡され、手の空いた娘を見れば自身も着込んでいると見えたが。
どうして外へ出るのかは、理解の外。
問えば、着けば分かるとばかり返される。
…犬としてどうなのかと思えど、常のことであるから、浅い溜め息しか出ない。
「ほら、ロット!」
暗い中、考えながらに歩いてれば不意に、呼ばれる。
そしてはしゃいでいたのはこれかと、納得した。
桜の下に並べられた、揃いの白いテーブルと二脚の椅子。
テーブルの上には、見覚えのある骨のランプに、
赤の透けるボトルと、矢張グラスが二つ。
桜の木に対しランプの一つは些か充分では無いとも見えるが、
夜桜に酒宴。
この娘にしてはマシな部類の思い付きなのだろう。
「とっときの瓶を見ていたら、赤い酒が多くてねぇ。」
何処か得意げな娘が示した真紅は、底に花が、沈んで。
「…炭酸も多かったから此れにしたの。
蜂蜜酒ですって。」
あまいの、少しぐらい慣れたかしら。
くつくつと笑いながら言う。
「うっせ。
主人の好みに合わせるくらいしたらどうなんだ。」
渋面で返す。
「キミの好みはキミこそがよく知るでしょう?
ワタシではそれに準じるしかないもの、
ワタシのとっときを饗す方が上等と思うのよ。」
小娘が、言うようになったものだ。
は、と軽く笑いながらグラスを傾ける。
甘いは甘いが、花の香りはよく手間を掛けられたのを感じられて、悪くは…ない。
照らされた桜を見上げ、時折花弁が流れるのを追う。
瓶の中の蕾を掬い上げるように減らしていけば、
他愛ない話も合間に干される。
仕事に打ち込むのは兎角周りが見えなくなるのは良くないだとか、
次にエルフヘイムへ帰って来たらあそこに行きたいから覚えてろだとか、
好き勝手に喋り続けていた娘が、不意に黙る。
何かとそちらを向けば、瓶の中には酔い蕩けた花ばかり。
だからかと、思えば。
「ねぇ。」
「ロット、あいしてる。」
へらりとゆるい笑みを浮かべて、幾度も聞いた事を言う。
もう慣れる程に聞いた筈の、言の葉。
手の中で揺れる赤色に、視線を落とす。
「……知ってる。」
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プロフィール
HN:
フィグ
年齢:
34
性別:
女性
誕生日:
1990/10/17
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