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極彩に負けぬ真っ白い様が、邸の主によく似合うと思った。
溢されたことばを否定する気もなく、
当たり前だろうと内心の笑みに加えて。
(まぁ、こういう少女趣味染みたものは、好きだけれど。)
言えばますます可笑しな顔をされそうだから、
ただ言い付け通りにと笑んでみせた。
それへ返されたことばは何処か遠回しで、
けれど嬉しくない筈もない。
花で溢れた庭に、わざわざ置かれた花瓶が拍車を掛けた。
上機嫌で手土産を示せば、未知の代物ではなかった様で先ず安心が。
偏食家に食べさせるものをと迷い迷った選択だったが、
自分で選んだならと言われ、脳裏に疑問が浮かぶ。
以前なら警戒やら選り好みやらが混じりそうなものなのに。
厭とも違うが計り難いものを感じる。
感じるが、十分というのは肯定だと思う。肯定は、好きだから。
浮つく思考は、更に珍しい発言にはぜた。
卆なくこなすかと思っていたが、そうも珍しいだろうか。
東方の茶が、こうして訪れたもののある事が。
ことばを接ぐ前に浮かんだ笑顔で、
これはこれは主自ら、とつい揶揄しそうになる。
軽口を叩くのは好き、からかうのも好き。
素直に吐こうが道化の陰に掻き消せて、
そして常と違う顔をさせられるのが好き。
反省はしたけれど、延々繰り返してきた性分がそうそう直りはしない。
でもポットを見詰める様子が真剣で、
花の綻ぶ様をようよう見守っているから、止した。
「…ふふ、大丈夫よ。少しくらいで茶が違うものになりもしなかろう」
代わりの本音を吐けば、いつもの顔で頷かれ。
芳香を立ち上らせる茶が注がれる間、
ポットの中では、くるくると花が踊る。
さてと落ち着いたところでカップに手を伸ばした主は、
考え顔に渋面を足す。
見慣れた表情は、最早癖なのだろうと思うけれど、
余り顰め面ばかり作っていると、額に皺が刻まれようと気にもなる。
しかし仕草だけの嘆息にそれが解けたのを見て取って、意識は茶会に。
自分も慣れぬなりにお膳立てをして、
そして恐らく得意だろう人間に席を頼んで。
そんな茶会を楽しまないのは、損だろう。
強くなり始めた陽を目先に、カップに口を付ける。
選んだのは自分だけれど、そういえば、どんな味かを知らない。
きれいなものは、いいもの。
毎度ながら単純に考えて含めば、更に鮮やかな香りが広がって。
典雅な趣味はなくとも「美味しい」くらいは分かる。
矢張りいいものだ、と目元を緩める。
半ばまで空けた物語の欠片を置いて、手土産の包みを解きにかかる。
揶揄しそうになったが、自分で好きにして良い様な場であるなら、幾らも気が楽だ。
「サ、飲んでばかりより食べるもあるが良かろうよ」
得意げに蓋を開ければ、視線を遣った顔が呆れた色に固まる。
「…どんだけ食う気だ」
「うん? 嗚呼、キミがひとより食べなくても、ワタシは食べる方であるし、
それにキミは一人居じゃなかろう?」
当たり前だろうと大きな邸に目をやって返せば、
何を思いだしたかこめかみを押さえる。
「好きに食べれば良いと思うけどねぇ。
それだから、一つ一つは小さいのよ。」
これは普通の餡子、これは白餡に果実を混ぜたらしい、
こっちは揚げて胡麻を塗したの、否、塗してから揚げたと言ったっけ。
それから甘くないの、この捻ってるのは肉と筍で、
嬉々として教わってきた紹介をする。
物覚えは悪いと思っていたけれど、こういうものなら覚えられようか。
ほらと重ねて促す。
熱くなければ不味いものでもなく、直ぐに冷めてしまう冬でもなく。
それでも何となく、早く食べる方が美味いような気がするから。
少しの躊躇いの後伸ばされた手に笑みを深めて、さて自分もと食べ始めた。
一仕事のあと、というのは様々美味く飲み食い出来るといつでも評判だけれど
それでもトキとモノとヒトでもまた変わるだろう。
つまり此度は、大層上等で。