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フィグ・アジェスト(c00731)のブログ。キミはワタシを知ってるかい?
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準備やよし、と部屋を見渡す。

身支度は出来た。
慣れぬ香りは外の熱気に奪われてしまいそうであるけれど、
自分が今楽しむだけでも、何だか嬉しくなるもので。
送られてきたものも、勿論忘れずに。
そして手土産は途中で買うからと、財布も忘れてはいけない。

でも、それだけ。
戦さ準備の要らない準備は、何処か落ち着かないような気がする。

今一度、少ない持ち物を確認し、律儀に届いた手紙を懐に仕舞う事にして。

最後に開け放していた窓を閉めると、
手元でからりと、聞き慣れた音がした。



宿のある中層は、自分の様な手合いには一番暮らしやすい。
何処にでもは無いけれど野山はあるし、
食べ物を扱う店もふんだんにあれば、歓楽街もある。
村が唯一の世界に等しかった大昔からすると、とんだ変化だ。

今の宿に腰を据えて、数年は数えた筈である。
借りている自分も、貸している側の親爺もひどく大雑把であるから、
正しくどれだけの期間になったかは、よく分からないけれど。
それでもこの、星霊建築で組み立てられたような街は、
いつまでも発見が尽きない。

今目指しているのも、確か去年の暮れ辺りにやっと見つけた店だった。
偶に通る洋品店と靴屋の間の角から、4時くらいに通る風が教えてきた。
今は季節も時間も違うから、未だ匂いはしてこないけれど。

赤を基調に、所々金色の塗装で飾られた外観。
随分派手になるだろうに、極東のものと思しき変わった造り以外に、
余り人目を引かないでいるのはその年季のせいなのだろうか。
店先から上がる湯気に嗚呼いつも通りだと、取りとめも無く思い
歩を進めるとバルカンに話しかけていた店主がこちらに気付いた。

表通りから外れ、また癖の強いものを扱う店であるから
常連は一定数居ても、新しい客は余り来ないらしい。
匂いに釣られて遣ってきて、常連ほどではないけれど偶に訪れる小娘を、
店主は珍しがってよく顔を覚えたと聞いた。

宿の親爺とまた違った意味に喰えない店主と軽口を二三交わし、
頼んでおいたものを受け取る。
丸く曲げられた木の枠に、竹の網で蓋をした入れ物。
セイロと言うらしい。
店先で湯気を上げているそれより幾分も小さいそれなら、
持って行く事も出来るだろうと勧められた。
確り売りつけてくる辺り、本当に喰えない人物であるが。

自分がいいものだと思ったから選んだけれど、
価値観が宛にならない事はよくよく知っている。
街行く皆が骨を抱えていればかあいらしいだろうに。
少しばかり不安が首を擡げた気がしたが、
美味いものは美味いと、心の中でその首をもいでおいた。

先日買った茶葉。
花が咲くというそれは、綺麗に包まれていたけれど、
この店の奥で様々な種類が扱われているそれと、近しいものであったらしい。
送りつけた後になって、そういえば似ていると見に来て話を聞けば、
茶菓子にはこれが良いと――やっぱり、ちゃっかりと勧められた。

…改めて考えると、どうにも癪である。
仕方が無いので目的地に意識を向け、笑顔で店主に別れを告げる。


包んで貰ったセイロはどうにか持ちやすくなっているとはいえ、
中に柔い食べ物が入っていると思えば、ぞんざいに扱えはしない。
もう片手が塞がるような花束を持たずに良かった、と
自分の判断に頷いてみたりして。


そうして慣れない道を教えられたままに辿り、
段々と喧騒が遠ざかって来ると、即ち目的地が近付いているという事であり。
万が一にも無くすまいと、紐に通して首に下げた夜色を
その存在を確かめるように上衣越しに押さえた。

正面玄関から、普通に、訪れれば良いだけだ。
後のことは、まぁ案内してくれるだろう誰かに委ねるとして。

大きな屋敷を見上げて、知らず足を早めていた。



 出迎える為の訪問は、茶会の準備と花とが先触れて

 片腕にはきちんと手土産を

 もう片腕で引っ張り出した、通行証

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フィグ
年齢:
34
性別:
女性
誕生日:
1990/10/17
自己紹介:
 この作品は、株式会社トミーウォーカーの運営する『エンドブレイカー!』の世界観を元に、株式会社トミーウォーカーによって作成されたものです。
 イラストの使用権は作品を発注したPLに、著作権は『山田2』絵師に、全ての権利は株式会社トミーウォーカーが所有します。
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